70年の時を経て、どうリメイクされたのか楽しみに見て参りました。
リメイク作品は元と比べて、うーん…というものが多いですが、この作品はとてもいいと思いました!
お客さんの年齢層は高め。私もそうですが、自分の人生を見つめ直す年代にさしかかってくると、生き方をテーマにした作品に興味をひかれます。
かなり忠実なつくりとなっています
まず、脚本のカズオ・イシグロさんが、黒澤監督の作品に敬意を払っていることが、とてもよく伝わってきました。
もちろん違う部分もありますが、誠意を感じるアレンジというのでしょうか、あざとさやいやらしさがなく、とても真摯なのです。
少し真面目すぎるのでは?といえそうな仕上がりで、ひじょうに好感が持てました。
全体を通して共通するのは、主人公の生き方を示した上で「あなたはどう感じますか?」とこちらへ問いかけてくる映画であるということ。
映画を見たひとりひとりに、静かに迫ってくる、考えざるをえない気持ちにさせてくる作品なのです。
さすがカズオ・イシグロさん…と感嘆しました。とにかく巧みというか、前作より数十分短いにも関わらず、それを感じさせないのです。
一体どこをカットしたのか? まとめ方がうますぎます。
まぁ、私などがほめるのも大変おこがましいのですが(笑)
違うところもあります
有名シーン「ゴンドラの唄」がどうなったのかというと「ナナカマドの木」というスコットランド民謡になっていました。
主人公ウィリアムズ氏の、亡き妻の故郷の歌です。
これが、意外と抵抗感なく、心に入ってきました。
ゴンドラは「命短し…」で始まる直接的な表現であり、どこかおかしみや皮肉、自嘲のような意味もちらっと感じさせます。
一方、ナナカマドは失った妻と時間に思いを馳せて歌っているように見え、意味合いが少し違っているようです。
個人の好みですが、私はゴンドラの方に一票かな。
というのも、命が残りわずかだという悲しみや苦しみに、滑稽な部分がほんの少し入っている感じ…歌の下手さもあいまって、すごく味わい深いのです。
ナナカマドの木の方は、歌もお上手でスタイリッシュ。カッコよくて、これはこれで良いのですが。
もう一点、部下の女性が「ウサギのおもちゃを作る工場に転職」ではなく「ウェイトレスに転職」でした。
ウェイトレスだと「課長さんも何か作ってみたら?」という問いかけからの「公園づくり」という気づきにつながらないのでは?と思いました。
割と大切な設定だと勝手に考えていたのですが、ウサギのおもちゃは別のエピソードできちんと出してくれていたので、ないがしろにはされているわけではない、と納得することにしました。
「こんなものでも子どもに喜ばれるのよ…課長さんも何か作ってみたら?」 の場面が、黒澤監督の方で印象的だったため、少しこだわってしまいました。
公園を作った思いが、部下へ残した手紙という形で説明されていて、わかりやすかった。ウィリアムズ氏を理解していた部下の二人が恋人同士になった。この2つは前作になくて良かったところです。
まとめ
どうして今、この作品をリメイクするのかという疑問がありましたが、元の『生きる』は、作られた時代のせいで、少し理解し難いところ、単純に見づらいところがありました。
現代には通用しにくいかもしれません。
名の通ったものをリメイクするには勇気が必要だと想像しますが、こうして真面目で優しい、良作に再現していただけて、本当に良かったです。
お時間の許す方は、ぜひ、二作品を見比べていただきたいです。