何作か観てきましたが、なんか気が合うケリー・ライカート監督。
フェミニズムがどうとかは分かりませんが、女性を主役にしている西部劇ということには新鮮さを感じます。
目次
「ウェンディ&ルーシー」の監督ケリー・ライカートと主演ミシェル・ウィリアムズが再タッグを組み、西部開拓時代のアメリカを舞台に描いたドラマ。1845年、オレゴン州。移住の旅に出たテスロー夫妻ら3家族は、道を熟知しているという男スティーブン・ミークにガイドを依頼する。旅は2週間で終わるはずだったが、5週間が経過しても目的地にたどり着かず、道程は過酷さを増すばかり。3家族の男たちは、ミークを疑い始めていた。そんな中、一行の前にひとりの原住民が姿を現す。共演に「スター・トレック」のブルース・グリーンウッド、「アルマゲドン」のウィル・パットン、「ルビー・スパークス」のゾーイ・カザン、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・ダノ。
2010年製作/103分/アメリカ
『映画.com』より引用
原題:Meek’s Cutoff
配給:グッチーズ・フリースクール、シマフィルム
劇場公開日:2021年7月17日
最初からそこそこ不遇な主人公たちが、さらに窮地に追い込まれていくという、しんどいといえばしんどい作品です。
今作も冒頭から川を渡ったりなど大変そうでしたが、こんなのはまだ幸せな方でした。
なにしろ水がなくなってくるのですから、生死に直結します。
生きるか死ぬかがかかっていて皆が真剣な中に、おかしさ、滑稽さがただよっています。
道案内として、どうしてこんな胡散臭い男(ミーク)を雇ったのかがそもそも疑問です。
2週間で着くと言って5週間歩き続けていることから、信用ならない男だとはっきりしているのに、信じたいという気持ちだけでついて行く三家族。
ミークは常に調子の良いことばかり言い、武勇伝などもどこまで本当かわかりません。
テスロー夫人(ミシェル・ウィリアムズ)に嫌われていることを妙に気にしていますが、そんなのは当然だろ〜とツッコミたくなります。
途中で捕らえた原住民の男とは意思の疎通ができず、一家族の馬車は壊れ、水も残り少なくなります。
疑心暗鬼になったり、意見が分かれたり、彼らの精神状態も不安定になっていきます。
そんな中でテスロー夫人だけが冷静に状況をとらえて、原住民の男の信用を得ようとします。
中でも、原住民の靴を繕って見せ、彼が裁縫箱を勝手に自分のものにして持ち歩くようになったエピソードは、ほのぼのとして面白かったです。
また、倒れた男にまじない的な謎の歌を歌うところも、ユニークでした。
結局、状況を見据えて常に冷静でいるテスロー夫人が一番賢く、最後にはミークもテスロー夫妻に従うと敗北宣言したわけですが、ミークのどうしようもなさが極まった場面で、呆れました。
彼らが水場にたどり着くかどうかはわかりません。
人間は時に愚かな選択をし、死に至ることもあるでしょう。
そんな滑稽なところも含めて、自然のひとつ、愛すべき生き物のひとつとして監督は描いているような気がしました。
いつものように、牛や馬、小鳥、生き物がたくさん登場しますが、いやされるのと同時に、彼らの方がありのままに生きられて自由であり、知的に見える不思議さを感じました。
雄大な自然の中を、ひとり歩いていく原住民の男もそうです。
文明のある者たちは彼を見下しますが、彼について行かざるを得ない皮肉と、本当に愚かなのは誰なのかを問いかけられているようなラストシーンでした。
ここで映画が終わっているのは秀逸です。
人間って目先のことにとらわれて、道を誤っていくものだけれど、愛おしい存在であるという、ケリー・ライカートなりの人間讃歌なのかな、と思いました。