『オールド・フォックス 11歳の選択』映画感想文・親の教育って大切

地味ながら、人間の生き方について考えさせられる、いい映画でした。

誠実な父親、タイライの元で育った11歳のリャオジエが、家主のシェとの交流を通して、子どもながらに人生の方向性を模索します。

その揺れ動く心情が繊細に描かれていました。

あらすじ

1989年、台北郊外。レストランで働く父のタイライと慎ましく暮らす11歳のリャオジエは、いつか父とともに家を買い、亡き母の夢だった理髪店を開くことを願っていた。しかしバブルによって不動産価格が高騰し、父子の夢は断たれてしまう。ある日、リャオジエは「腹黒いキツネ(オールド・フォックス)」と呼ばれる地主のシャと出会う。シャは優しく誠実なタイライとは違い、生き抜くためには他人を見捨てろとリャオジエに言い放つ。現実の厳しさと世の不条理を知ったリャオジエは、父とシャの間で揺らぎ始める。

2023年製作/112分/G/台湾・日本合作
原題:老狐狸 Old Fox
配給:東映ビデオ
劇場公開日:2024年6月14日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

地主のシェは富という点では確かに成功者であったかもしれません。

しかし、金で勝ち負けを決めるという価値観で、はたして幸福だったのかどうか。

本当の立派な経営者というものは、お金が第一という考え方ではありませんよね。

シェの考えに触れたリャオジエが、感化されそうになったのは、父親に美容室を持ってもらいたいという強い望みがあったからです。

考えてみると、そこには、亡くなった母への思いや、父をいたわる気持ちなど、子どもなりの親への愛情があったのではないでしょうか。

タイライから受け継いだ優しさが発端となっているので、最後はシェと決別することができたのでしょう。

決して金銭的に豊かではない父子の生活ですが、あたたかく愛情に満ちた生活が微笑ましく素敵でした。

器用なタイライは仕事のかたわら、リャオジエのスーツやクリスマスツリーを手作りします。いいお父さん…。

一方でシェは孤独であり、どこか冷え冷えとした生活。信頼されていないために部下の裏切りにも直面します。

シャは貧しい者は負け犬であるという価値観から、どこかで生き方の信念を誤ってしまったのかもしれません。

「強い者につけば強くなれる、弱い者につけば弱くなる」という考え方のシェには、お金は集まってきても、人は集まってこないですね。

正しく導いてくれる親の存在はありがたく、大切なのだと感じました。

今作では門脇麦さんが孤独でミステリアスな有閑マダムを演じておられました。

地味な内容に華を添えていて、出演シーンは少ないものの、とても印象的でした。

さて、タイライたちがその後、美容室を手に入れたれたのかどうかはわかりません。

しかし、リャオジエは誠実な父親から育てられて、道を誤ることなく、他者貢献できる仕事についたようです。

おそらく、タイライが一生懸命に働いて、大学を卒業させてくれたのでしょう。

11歳での選択が、大人になった現在の彼を形作っていると感じられる素敵なラストでした。

狡猾なキツネになりかけたリャオジエ、まっすぐに育って本当に良かったです。

他者のためを考えて生きるのが、結果的に自分のためになるということ、シェにもわかってもらいたかったですね。

一旦身体に染み付いた勝ち負けの価値観からは、なかなか逃れられないものなのかもしれません。

見ごたえのある映画でした。