『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』感想文・上映時間3時間26分

これまで映画館で観た最も長い映画は『RRR』の182分でしたが、軽く超えて206分。大丈夫だろうかと少しドキドキしました。

トイレの他にも、エコノミークラス症候群が心配なので、映画館でも途中休憩を入れるべきだと思うのですが、当然のようにありませんでした。

にもかかわらず、途中トイレに行く人がゼロだったのは超びっくりです。皆さん気合と下準備が充分だったようで、さすが公開初日だと感心しました。

公開後にAppleで配信あり

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』公式(新しいタブ)

AppleTV+(新しいタブ)

近日中にAppleTVで配信が予定されています。映画館で3時間半はキツイ…という方も多いと思いますので、ぜひこちらをご利用ください。7日間無料のようです。

監督・キャスト

監督

マーティン・スコセッシ(80歳)・代表作『タクシードライバー』

キャスト

レオナルド・ディカプリオ(アーネスト・バークハート)

ロバート・デ・ニーロ(ウィリアム・ヘイル)

リリー・グラッドストーン(モリー・カイル)

雑なあらすじ

1920年代のアメリカ、オクラホマ州。先住民のオセージ族は石油を発見し、莫大な富を手に入れる。

地元の有力者である叔父ヘイルを頼ってきたアーネストはオセージ族の娘、モリーを半ば金目当てで妻にする。

叔父ヘイルには裏の顔があり、モリーの親族は遺産目的で次々と殺害されていく。アーネストはモリーとの愛を育みながらも、ヘイルに操られる。

やがて町は混乱に陥り、FBI捜査官が解明に乗り出す。

実話・元ネタ・原作

実話をもとにしたデイヴィッド・グランの小説『花殺し月の殺人インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』を映画化したサスペンスです。

実際に1920年代の数年間で60人以上といわれるオセージ族の人々が殺されたり行方不明になるなどしており、犠牲者はすべて均等受益権で富を得た人々だったということです。

ナショジオに詳しく載っていたので、こちらを読んでいただければ最速理解できます。

オセージ族連続怪死事件とは…

ネタバレあり感想

物語はシンプルで、石油が出て富を得たインディアンの部族に近づいていき、殺人を繰り返す白人入植者の話です。

ここでの悪の親玉はデ・ニーロ扮するヘイルであり、筋の通ったブレない悪人として、存在感を放っていました。一見優しそうに見えて、簡単に殺せ殺せと言う恐ろしい人物。

アーネストは洗脳されたかのように抗えないのですが、モリーのことも愛している…この辺りが人間として白黒つけられない複雑さを表現していて、優れた映画だと感じました。

金への執着も断ち切れず、妻への愛情と板挟みになる。その葛藤が、哀れでもあり魅力的でもあり、面白く感じました。

この自分というものが全くない、本当にどうしようもない男アーネストが、一周回って愛らしくさえ見えてきます。

ディカプリオの表情が非常に豊かで、それだけでも飽きません。

妻のモリー役のリリー・グラッドストーンがとても知的で物静か、そして芯の強い女性を演じていて、素晴らしく、逆になぜアーネストのようなダメ男に引っかかったのかがよくわからないほどです。

「顔だけはいい」という台詞がありましたが、ディカプリオの実年齢はもう48。ちょっと馬鹿な感じもあり、モリーの趣味どうなの?と思いました(笑)

怪しいインスリン、知っていたのかどうか

糖尿病の妻モリーにインスリンを投与するアーネストでしたが、途中から気持ちが落ち着く薬を混ぜるようにと言われます。

これが徐々に身体を弱らせる毒物だったようです。

アーネストは知っていて投与したのかどうか、気になるところで、鑑賞後に夫から「あれ、どうだったんだろう?」と聞かれました。

私の考えは、毒物であろうと内心知りつつも、叔父からの指図に背くことができず、愛する妻に与えてしまった。確かめはしなかったが知っていた(未必の故意)、というものです。

しかし、現実に妻が衰弱するようになると、それを見て苦悩するわけですから「アンタのせいだろ!」とアーネストの愚かさ加減に呆れながら見ていました。

妻に飲ませようとしたのか、やけを起こしたのか、ウイスキーに混ぜて自分が飲み、具合が悪くなるところも「一体どうしたいんだ!?」という感じです。

人間は多くの矛盾をはらんでいて複雑です。

大切な妻で愛情もあるのに、死に至らしめる行為を続けるなんて、まったく裏腹です。

金への執着と叔父への忠誠心、その呪縛から逃れられなかったアーネストの悲しさをしみじみと感じました。

上映時間がやはりちょっと長い

私個人の見方では「話のシンプルさに比べて少し長尺だったかな」と思いました。一緒に行った夫も「ちょっと長かった」と言っていました。

そろそろ終盤かな?と思って時計を見たら、まだ一時間半も残っていて、うわ…と思ったのは事実です。

スコセッシ監督が大御所ということで、誰も「長すぎる」と言えなかった、あるいは、もう高齢だから「好きなように作らせてあげよう」という配慮があったのかも…と想像してしまいました。

「まぁ、そういう監督だからしょうがない」とあきらめるしかないのですが。

SNSでは「時間を感じさせず、あっという間だった」という感想もあり、感じ方は本当に人それぞれですね。

「長いけど面白い」か「面白いけど長い」どちらかというと私は後の方でしょうか。やはりデ・ニーロとディカプリオの共演ですから、画を見ているだけでも楽しいし面白い。それだけは確かです。

まとめ

100年前の話、というと先日観た『福田村事件』を思い出します。どちらも加害者側を丁寧に描いており、犯罪者にも生活があり、家族があり、事件を除けば普通の人であることがわかります。

警察も政府も過ちを犯す時代で、一般庶民の認知の歪みを元に、大きな事件が生まれたこともわかりました。

人類はまだ進化の途中にあって、現在の価値観も成熟したものとはいいきれません。それゆえに、今も100年前の時代と同じような犯罪が起こりうる怖さというものを感じました。

金のためなら殺人でもなんでもする、という今作と合わせて、恐怖と差別が悲惨な事件を生んだ邦画『福田村事件』もおすすめしたいです。

『福田村事件・感想文』ほりもぐ(新しいタブ)

本当に人間がいちばん怖いです…