アリ・アスター監督絶賛と言われると気になって、公開から2か月経ち、やっと観に行けました。終わらなくてよかった。
インパクトの強いキービジュアルで、予告のアニメーションもなかなか強烈な部分を切り取っています。
全編を通して終始このトーンは崩れず、奇妙で不気味な作品でした。
観ているうちに映像そのものには慣れていきますが、そこに込められた意味を知ると、カルト教団がらみのため、気味悪さが増す映画でした。
概要・あらすじ
概要
上映時間74分の長編ストップモーション・アニメで、監督はチリのアーティスト、ホアキン・コシーニャとクリストーバル・レオン。
実物大のセットを組んで約5年の歳月をかけて作成されました。
チリに実在したコミューン「コロニア・ディグニダ」に属する者に向けた「教育ビデオ」という設定です。そのため、コミューンを逃げ出した怠け者はこのような目に合う、という戒めの内容になっています。
あらすじ
主人公マリアがコミューンから脱走し、逃げ込んだ一軒家には2匹の子ブタがいました(いたのか?現れたのか?)。それらは人間に姿を変えます。
森の奥からは彼女を探すオオカミの声が聞こえ、マリアは怯えます。
マリアは男の子にペドロ、女の子にアナと名前をつけ、つかの間の楽しい生活を送りますが、やがて食料が底を尽き始め…。
ストップモーションといっても、絶えず動き続けるアニメーションです。
どこで見れる? 配信は?
配信は2023年10月現在、予定されていないようです。まだ映画館で上映されているので、お近くの上映館を探してみてくださいね。
8月19日公開からもう2か月も経ったのに、まだ終わる気配がないので、待つより行動あるのみです! 「観たいうちに観る」これは大切なことです。
元々、東京では渋谷の「シアター・イメージフォーラム」1館でした。
もよりの新宿に行けば観たい映画はたいがい観られるのですが、わたくし渋谷があまり得意ではなく「渋谷なら行かない」と決めていました。
すると、好評を博して「シネ・リーブル池袋」でも上映が始まり、池袋も好きではないけど渋谷よりマシ(どういう基準!?)ということで、池袋まで出向きました。
初めて行きましたが、パルコ内で、上映までお買い物ができるし駅近で便利です。ただしイスが固くて駄目。座った瞬間にアレレ?と思うくらい、他のシネコンなどと違います。
ここでもう1本観たのですが、あとからドッと疲れました。「固いイスはボディブローのように効いてくる」と学びました。
74分だからまだ良かったものの、長尺だとつらいです。よって、よほどのことがない限り、行かない映画館のひとつになりました。イスはぜったいに大事です!
関係ない話になってすみません。
同時上映『骨』
『オオカミの家』を観てたいそうお気に召したアリ・アスター。見るからに気に入りそうだし好きそうです。
彼はレオン&コシーニャ監督と意気投合し(するでしょうね!)、同時上映となる短編『骨』の製作総指揮に名乗りを上げました。
上映時間14分の短編、少女が人間の死体を使って謎の儀式を行うという内容です。
「2023年に美術館建設に伴う調査で、発掘された映像」「1901年に制作された世界初のストップモーション・アニメ」という前設定があります。
『オオカミの家』の前に上映されました。
骨って私はあまり怖くないので、コロコロ動いて可愛らしいと思える作品でした。
結ばれることが叶わなかった恋人(不倫?)を蘇らせるという目的があったようです。
(歯切れが悪いのは、理解力不足もありますが、途中で一瞬寝てしまったからです。)
たった14分しかないのに寝るなんておかしいと思われるかもしれませんが、こんな感じなんだなぁ…と悪い癖で「分かったつもり」になってしまったのが敗因でしょうか。
『オオカミの家』元ネタ
ベースとなったのは、犯罪カルト集団「コロニア・ディグニダ」。
36年(以上)に渡り、男児への性加害を行っていたパウル・シェーファーの教団です。
拷問や殺人も行っていたという恐ろしい集団で、調べていくうちに心が暗くなってきました。
シェーファーはドイツで聖職者として働くうちに、男児に性加害を行い逮捕状が出たため、南米チリに移り、開拓してコロニーを作りました。
子どもを親から切り離して、お気に入りの「少年団」を作り、少女たちはといえば、最低限の食事しか与えず労働に従事させていました。
逃げた者はドイツへ送り返されるか、連れ戻されて拷問を受けたと言われます。
コロニア・ディグニダは政府も丸め込んで味方につけており、そんなことが可能なのかと驚きましたが、考えてみれば日本でも長くジャニー喜多川による性加害が常習化していて、我々は何かあるなと薄々感じながらもジャニー氏の存在を認めているところがあったわけです。
自分の欲望を満たすために知恵を総動員して、マインドコントロールなどを駆使している相手からは、簡単に騙されてしまう私たちなのでしょう。
ネタバレあり感想
不気味なアニメーションではありましたが、そんなに「狂っている」というほどでもなかったです。
想像の範囲内というか、もっと頭がおかしくなるような映画は世の中にたくさんあるので、まあこんなものかな…という感じでした。
主人公のマリアは怠け者、コロニーから逃げ出したという設定。そこで一時は豚から返信した少年少女と楽しく暮らすわけですが、食料が底をつき、元のコロニーに助けを求めて、再び戻っていくのです。
コロニーを離れようとした者への教育ビデオという設定で、逃げようとするとこういうことが起こるんだよ、コロニーにいた方が幸せなんだよ、という教育になっています。
怠け者だったマリアはコロニーに戻ってから真面目に暮らしたという結末ですが、本当は拷問などの厳しい刑罰が待っているのですから、そこが内部向けの嘘だということです。
マリアはコロニーで強制労働させられていたはずですが、それが嫌で逃げ出したところで、外の世界では結局幸せにはなれないという、絶望の物語だと私は捉えました。
戻った方がマシだったという話にしたいのが教団側。オオカミの家というタイトルですから、マリアを呼び戻すために、あの手この手でオオカミが幻影を見せているのかなと思いました。
ペドロが女の子だったら、3匹のブタはマリア、ペドロ、アナ、ということで辻褄が合うのですが…なにしろ「コロニア・ディグニダ」では女性が「メス豚」と呼ばれていたのですから。
まとめ
元ネタがあるということで、一層、不気味さが増しているアニメーションだったと思います。
ただ、このテイストに一旦慣れてしまうと、どこが山場なのかわからず単調に思えてしまう部分もありました。予告でいい場面を流し過ぎているような気もします。
現れては消えていく、同じような展開が続くため、少し眠くなる場面もありました。
しかしそれはそれとして、大変な作業量であり、その発想力がどこからわいてくるのか、二人でどのようにすり合わせているのかはとても興味深いところです。
今後、どのような作品を生み出していくのか、今後のレオン&コシーニャ監督に注目していきたいです。
変わったものを見てみたい!という方におすすめですが、見る人を選ぶかな?という感想です。