『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』生きづらさと人とのつながり

ルイス・ウェインは19世紀後半から20世紀にかけてイギリスで活躍した実在するイラストレーターです。上流階級に生まれ、絵の才能に恵まれながらも、その人生といえば、妻を亡くし、きょうだいの家計を支え、元々の発達特性に加えて統合失調症を患うという苦難がありました。彼にとって、猫の絵を描き続ける意味とは何だったのでしょうか。

私は勝手に夫婦愛のハートウォーミング的なお話だと思い込んでいたのですが、想像とはかなり違っていました。内容がお知りになりたい方はウィキペディアをご覧になると、ほぼ映画のお話そのものです。

この時代は今よりも差別や偏見に満ちた世界であったことが想像できます。ルイスの才能があれば財産を得ることも容易であったはずなのに、優しい性格につけこまれて二束三文で契約をさせられ、生活の困窮は一向に改善されません。

また、この時代の猫というのもペットとしての地位は低かったと思われます。ルイスは共に弱い立場である猫に共感し、猫を通して人間社会を描くことで、生きづらい世の中と危ういながらもつながり、自分自身を癒やしていたのでしょう。

「どんなに悲しくても描き続けて」という妻エミリーの言葉により、精神の病に苦しみながらも描き続けたルイスは、やがてファンからの支援を受けることになりました。

自分の信じた道で多くの人を楽しませてきたことが、時を経て自分に返ってきたのです。人とつながる仕事、喜ばれる仕事を続けてきたルイス。困難の多い生涯であったと思いますが、それが報われて平穏な老後が訪れたことは、見ていて大きな救いとなりました。

愛猫のハチワレ猫ピーターをはじめ、可愛らしいたくさんの猫とルイスのイラスト、衣装も風景も絵画のようで、とても素敵な映画でした。