『めくらやなぎと眠る女(吹替版)』映画感想文・つかみどころのない浮遊感のある作品

映画の合間にちょうど上映していたので見てみました。

村上春樹の原作が短編集なので、オムニバス的なつくりかと想像していましたが、一本にまとめてあり感心しました。

このフランス人の監督さんは、本当に村上春樹が好きなんだろうなぁ…愛を感じました。

↑「かえるくん」と呼ばないといちいち訂正されてめんどくさい(笑)

あらすじ


2011年、東日本大震災から5日後の東京。テレビで震災の被害を伝えるニュースを見続けたキョウコは、夫・小村に置き手紙を残して姿を消す。妻の突然の失踪に呆然とする小村は、ひょんなことから中身の知れない小箱を、ある女性に届けるため北海道へ向かうことになる。同じ頃、小村の同僚・片桐が帰宅すると2本脚で立ってしゃべる巨大なカエルが待ち受けていた。「かえるくん」と名乗るその生き物は、次の地震から東京を救うために片桐のもとにやってきたという。大地震の余波は遠い記憶や夢に姿を変えながら、小村やキョウコ、片桐の心に忍び込んでいく。

2022年製作/109分/PG12/フランス・ルクセンブルク・カナダ・オランダ合作
原題:Saules Aveugles, Femme Endormie
配給:ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー
劇場公開日:2024年7月26日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

予告を何度か見て、原作は一応知っているけど鑑賞予定外かな、と思っていました。

それは、絵柄が少し微妙に思えたからです。

これは好みなのでどうしようもないのですが、実際、女性はなんだか皆ゴツゴツしているし、主人公である小村や片桐はお世辞にも魅力的とは言いがたいし、子どもに至っては大人か子どもか分からずちょっと気持ち悪い…。

だからといってアイドルマスターみたいな絵でも困るのですが、もうちょっとなんとかならないのかという気持ちはありました。

子どもに聞くと「それはわかっていてやってるんだよ」ということです。

そりゃそうですよね「頑張ったけどどうまく描けなかった!」なんてことはあり得ないわけで。

ただ、かえるくんだけは飛び抜けてクオリティが高かったので大満足でした。

100%イメージ通りなのはかえるくんだけ!と言えるくらい、細部までよかったし、キャラクターも喋り方も思い描いていた通り。

吹替版で見たのは正解でした。字幕版は監督自ら声をやっていたそうで、そちらも気にはなるけれど、原作も舞台も人物も日本なので日本語で見るのが自然な気がしました。

ひとつひとつのストーリーに一応の結末はあるものの、描かれている以上の意味が読み取りにくく、「これは何かのメタファーなんだろうか…???」と頭をひねるところも村上作品の読後感と近いものがありました。

主人公たちが皆フワフワしている中で、彼らに関わるかえるくんやレストランオーナーがはっきりとしたスタンスなのが小気味よかったです。アクセントが効いてるっていうのかな?

小村の「なんかわからないうちになりゆきで初対面の女の子といい感じになる」ところは村上春樹っぽくて気持ち悪いし(褒め)、片桐の「自分にはなにもない」という卑屈で自虐的な心情の吐露も村上春樹っぽくて気持ち悪かったです(褒め)。

登場人物が皆70年代あたりを生きている人のような、不思議な感覚も村上春樹らしい。

元の短編集が観念的なものですから、そのいくつかを再構築してひとつにまとめても、起承転結のあるテーマの明確な話になりづらいのは当然のこと。

ですので「だから結局なんなんだ!?」という気持ちがわいても無理はありません。

理解できなくても落ち込む必要なし、雰囲気を味わえば楽しんだことになると思います。

(興味深いという意味で)面白い作品ですし、村上春樹ファンならずとも挑戦してみてほしい映画です。