肉親や自分、誰の身にも無関係ではない「老い」の問題を、アンソニー・ホプキンス演じる老人の視点で描いた作品。
1時間半の映画ですが、2回見ることになり、3時間必要でした。分かった上で見る2回目は涙涙でした。
今作でホプキンスがアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。

おちゃらけてタップを披露するアンソニーが可愛い!
目次
ロンドンで独り暮らしをする81歳のアンソニーは認知症により記憶が薄れ始めていたが、娘のアンが手配した介護人を拒否してしまう。そんな折、アンソニーはアンから、新しい恋人とパリで暮らすと告げられる。しかしアンソニーの自宅には、アンと結婚して10年以上になるという見知らぬ男が現れ、ここは自分とアンの家だと主張。そしてアンソニーにはもう1人の娘ルーシーがいたはずだが、その姿はない。
2020年製作/97分/G/イギリス・フランス合作
原題または英題:The Father
配給:ショウゲート
劇場公開日:2021年5月14日(『映画.com』より引用)
物語が始まってしばらくすると登場人物が別人に変わるので戸惑い、不安になります。
これこそが痴呆の症状がある老人アンソニーの視点。謎が解けると、その困惑ぶりが身につまされました。
自分の家(と思っている場所)に知らない人物がいることへの恐怖、不安、混乱は当然のことでしょう。
「どうして分からないのか」「なぜ忘れたのか」と苛立つのは正常な認識のできる者たちの視点です。反対に患者側の苦しさを見る側に共有させた構成が画期的だと思いました。
といっても、全てがアンソニーの目線ではないこともわかります。
娘アンの苦しさもしっかりと表現されており、事実であると感じました。
気丈だった父が次第に記憶を失っていく。
介護人を受け入れてくれない。
亡くなった娘(妹)のことを自分よりも目にかけており、まだ生きていると錯覚している。
父親を施設へ入所させることへの罪悪感。
これらの苦しみがないまぜになってアンもまた悩みます。
特に、自分が父親を見捨てることになるのでは…という辛さは子どもとして最も辛い部分ではないかと想像しました。
先日87歳を迎えた名優アンソニー・ホプキンスが、怒り、苛立ち、おちゃらけ、泣き…と七変化の演技を見せて素晴らしいです。
ハンニバル・レクター役があまりにも有名ですが『ジョー・ブラックをよろしく』のお父さん役も良かったし、老年期の味わい深い演技が素敵です。
また、アン役のオリビア・コールマンが娘の複雑な気持ちを繊細に表現しているのがとても良いです。
ラストシーン、あれだけ毛嫌いしていた介護士に心を許し、子どものように涙を見せるアンソニー。
人生の終焉での悲しさはもちろんあるのですが、プライドを捨てて不安を打ち明け、癒やされ浄化される新たな道を見つけたようでした。
そのため、私にとっては後味が悪くならずに済んだようです。
最後にひとつだけ気になったことは、アンソニーの周囲の人たちが、たびたび「忘れたの?」「言ったでしょう?」とプレッシャーを与えていたこと。
悪気がないのはわかりますが、アルツハイマーを患っている方に言ってはいけない言葉ではないでしょうか。
とてもいいプロットなので、脚本の方は、もう少し配慮しても良かったのかな、と感じました。