『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』感想文・変態に気持ちを寄せていこう

デヴィッド・クローネンバーグ…私は若い頃に『ヴィデオドローム』『裸のランチ』などを楽しみましたが、その後軽く30年くらい経ってしまいました。

お元気で変わらず変な映画を作り続けていらっしゃるようだと嬉しくなり、初日に鑑賞して参りました。

設定としては、まず近未来において人類が進化し、痛みというものがなくなっているらしいです。

ハイそうですか、とにわかには受け入れがたい状況ですが、これが大前提。

無痛ありきという世界観に「やばっ! ついていかなきゃ!」と緊張が走ります。

もうちょっと初期設定を説明してほしい気がしなくもないです。

その上で、ソール(男性)とカプリース(女性)が提供するアーティスティックなショーは「ソールの臓器にタトゥーを施し、カプリースが摘出する」というもの。

身体を切開して、臓器を取り出す様子を観客に見せるのですよ、うへー!

本当に想像の斜め上ですが、現在80歳のクローネンバーグが20年もこんなことを考えていたなんて、本当にユニークというか変態じみていますね。

ちなみにソールの生み出す臓器はこれまでにない新しい臓器で、取っても取っても再生されるのです。「加速進化症候群」と呼ばれます。

痛みはないのですが、なんだかいつもソールは具合が悪そうです。傷が癒える時間は必要なのか、臓器が再生されるのに体力を要するのか。

途中ちょっと眠かったので、会話を聞き漏らしているかもしれません。面白くないからではなく、なんだか独特な雰囲気の映画で、フワ〜っと気持ちよくなっちゃったんですね。

手術シーンではなぜかガッと覚醒し、また再びフワフワ~っとして、を数回繰り返しました。

さて、具合が悪そうなソール。そのようなショーをやめればいいのですが、やめられない…というのも、この臓器摘出に二人は快楽を感じているのでした。キタキタさらなる変態…。

パフォーマンスとして観客に見守られながら、恍惚の表情のソールとカプリース。彼女が変なアワビみたいなリモコンを操ると、精密度の全然なさそうなロボットアームがソールの腹をまさぐるのです。

我々は何を見せられているのか…あまりに前衛的で目が点に。性的行為さえも進化してしまったのです。

しかしこれでは子孫が残せず、人類は衰退の一途ですね。それも含めてディストピアなのでしょうかね。

キービジュアルのソールがガイコツに噛みつかれているような写真は、まずそうな食事を提供する椅子なのですが、常にガタガタ動いていてとても奇妙でした。

また、ソールが眠るのもでっかいアワビみたいな、触手のついた動くベッドで、面白いのか、気味が悪いのか、アートっぽくて美しいのか、どう見るのが正解なのか分からないミョーな気持ちになりました。

さて一方で、進化を遂げた新たな人類はプラスチックを消化するようにもなっており、そうなってしまった少年の遺体がソールたちに提供されます。

もう、そこまでついていけるかどうか! がんばれ私! という気持ちです。

「ん!?!?」

「いや、クローネンバーグだからね…」

この感情が繰り返されます。

常識的な(つまらない)目線で見ているとこの世界観に置き去りにされるので、変態に気持ちを寄せていく私でした。

その上で思うのは、完全に理解できなくても、この世界観を楽しめたらそれで良しとすればいい、ということ。

「わからないけど面白い。寝たけど面白い」昔からデヴィッド・クローネンバーグの作品とはそういうものだってような気がします。

好みは分かれるでしょうが、クローネンバーグの最後の作品になる可能性もあり、話のネタに観ておいた方がいい気がします。ちょっと変わったアトラクションのような映画でした。

ストーリーとは関係ないけど、イヤーマンの前衛舞踏をもっと見たかった…何だったんだろう、あのシーン(笑)