『アナログ』感想文・携帯を介さない恋愛のリアリティとは…

携帯電話の出てこない恋愛が、昭和の頃のように感じます。すれ違いもあって「君の名は(1950年代)」をふと思い出しました。ちなみに私はまだ生まれていません(ここは強調)。

北野武さん原作、監督は「元気が出るテレビ!」などでディレクターをされていたタカハタ秀太さんです。

原作は未読ながら、登場人物の二人に何かがあり、離れ離れになることだけは予告で知っていました。

その上で見ていると進展しない関係にじれったさを感じますが、現代人に必須のコミュニケーションツールがない状態で、あえて回り道を選ぶところに意味があったのだと次第に分かってきました。

人というのは何でもすぐに割り切っていけるものではなく、みゆきにはゆっくり進む時間が必要だったのです。

携帯がないと言われたら、脈がないとあきらめるのが普通。理由は分からずとも、みゆきの時間に合わせて待ってあげられたのが悟であり、やはり彼女にとって、彼は特別な人だったのかなと思いました。

傷が癒えるまでの時間は人それぞれであり、見ていてもどかしいというのは私の勝手な解釈だったと気づきました。

興味深かったのは海辺で凧揚げや糸電話をするところです。30代の男女が…と考えるとありえない気もしますが、二宮さんと波瑠さんが演じることによって、優しさにあふれる印象的な場面になっていました。

原作のたけしさんが70歳で書いた小説ということで、昔遊びに大人ならではの郷愁やロマンがあったのかと想像しました。また、現在の奥様と出会ってしばらくしての小説ですから、何かその影響があったのかもしれません。

どんな過去があってもいいと言い切るのは、とても難しいことと感じますが、それを乗り越えるだけの愛情のことを純愛と呼ぶのかもしれません。人生の終わりに近づいて純愛を求める気持ちはわからなくもありません。

映画の方は、終盤にかけてなかなか切ない展開でしたが、みゆきの考えていたことが明らかになる場面では涙があふれました。そこでようやく二人の心が通じ合ったのでしょうね。

全てを受け入れるために、悟は猛烈に悩んだのかといえばそうでもなく、その意味では幸せな結末だったように思います。みゆきにも希望の光が見えて、ほっこりするいいエンディングでした。

文字だけのエンドロールが長々と出なかったのが、個人的にはとても爽やかで良かったです! 終わりよければ全て良しです。

あと、みゆきの服が毎回とても上品で素敵で、波瑠さんの着こなしがすばらしかったことと、脇役の方々の温かい人柄にも癒やされました。

一点だけ気になったところがあるとすれば、二宮さんと波瑠さんが並んだ時の身長をすごーく調整しているところがあったことです。そこはありのままで良かったのでは? と思いました。

含みや余白のない、ストレートなラブストーリーで、その分役者さんの演技に集中できてよかったです。恋愛映画は大人になるほど質が求められますね。鑑賞後感がさわやかな、いい映画でした。