シック・オブ・マイセルフとは「自分にウンザリ」「自分に反吐が出る」という意味らしいですが、内容から「逆説的な表現」なのかなと感じました。
私に注目してほしい、もっと私にかまってほしい、そんな主人公シグネの物語で、痛々しく、可哀想になぁ、という気持ちで見ました。
私はどちらかというと親目線なので「お母さんがいるんだったら、ちょっとなんとかしてあげなさいよ…」と言いたくなります。
映画内では病気と捉えられていませんでしたが、作為症(虚偽性障害)でしょうか。ミュンヒハウゼン症候群とも言います。
周りの人がもっと気づいて、声をかけてあげたらいいのにと思うばかりで、HPのコメントにあるような、楽しい、愉快、最悪な人間…という娯楽的な見方は難しかったです。
あらすじ
カフェの店員として働くシグネは、泥棒アーティストのトーマスという恋人と同棲している。万引きの手伝いをしながらも、仲良く暮らしているのだが、トーマスがアーティストとして注目され始めるとシグネは嫉妬するようになる。
嘘をついてトーマスに集まっていた注目を自分に引き寄せたり、また、トーマス自身の気を引くこともし始める。
始めの頃は自分の思うように注目されて満足していたシグネだったが、やがて「もっと注目されたい」とエスカレートしていく。
彼女はロシアの薬を、副作用があると知りながら取り寄せ、過剰服用するようになる。顔に湿疹が出るようになると、自分の写真を撮影し、注目を集めようとする。
カミングアウトした勇気のある女性として、取材やモデルなど、世間の目を集める仕事が増えていき、それと共に副作用の症状も激しくなっていく…。
ネタバレ含む感想
公式HPのあらすじには「シグネの人生は行き詰まっていた。長年、競争関係にあった恋人のトーマスがアーティストとして脚光を浴びると…」とありましたが、シグネの人生が行き詰まっていたようには描かれていませんし、トーマスと競争しているようにも見えませんでした。
この公式、ちょいちょい間違っていておかしいです。
さて、この映画ですが、予告編から想像されるほどショッキングなものではなかった印象です。寓話的ホラーとの記載がHPにありますが、どちらかと言えば「現実になくはない話」という怖さを感じました。
シグネの子どもの頃、父親が家を出ていったという話がありました。そこからトーマスに依存し、認められたいという気持ちに移ったと思われます。
しかし、頼る相手として「優しいけれど盗みをするような人物」はふさわしくなかったと言うしかありません。彼女の抱える闇の深さを感じました。
シグネの妄想のひとつに「真実を告白し、理解され、本を出版し、トーマスや世の中から認められる人生」がありましたが、自分の心の病に気づいて、治していかない限り、幸せにはなれなかったと思います。
そんな彼女の最も輝いて見える場面は、どん底に落ちたラストシーンです。最後に自助グループで本当の胸の内を告白しました。
それこそが彼女の本当の姿で、感動的でした。可哀想ではありましたが、バッドエンドには見えません。トーマスが逮捕されていたのも良かったですし、まだ二人でやり直す可能性も感じられました。
どん底で終わったので、欲を言えば、もう少し立ち直ったシグネの姿が見たかったです。
彼女は心の病気だったと解釈しているので、奇異な行動を取り上げて最悪だとか面白いとか言いたくはありませんが、興味深い作品でした。
私自身、周りの人達の異変に気付けるように、目を配っていきたいなと考えさせられました。
最後に…ひとつ気になったのは、シグネの着ている服がどれもちょっと残念だったこと。虎柄とかシルバーのジャケットがダサくて悲しかったです。一番似合っていて素敵だったのはカフェの制服だったくらい。
おそらく、注目を集めたい服、という意図があってのことでしょうが、それにしてももう少しお洒落な可愛い服を着せてあげたらよいのになぁ、とは思いました。