『シチリア・サマー』映画感想文・よくある感じの話、ではなかった

過酷な運命を辿る少年たちの愛の物語です。実話を元にしており、実際にシチリアで撮影された風景や花火が美しく、見どころのひとつです。

監督、キャスト

監督

ジュゼッペ・フィオレッロ

キャスト

ニーノ…ガブリエーレ・ビッツーロ

ジャンニ…サムエーレ・セグレート

あらすじ

1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。

バイク同士でぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。


育ちも性格もまるで異なる2人は一瞬で惹かれあい、友情は瞬く間に激しい恋へと変化していく。

2人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──

公式HPより

結末あり感想

「1982年、2人の美しい少年が死んだ」「実話ラブストーリー」と始めから謳われていました。

ただ、悲劇としてどう着地するかというよりも、2人が出会って愛情を育むところに重点が置かれていたようです。

主人公たちに対して、大人が皆、不寛容さと差別意識を持っており、本当に1982年の話なのかと驚きました。

50代の私にとってはつい最近のような気がしますし、ちょうどこの頃、彼らと同年代。

竹宮惠子先生の「風と木の詩」(フランスが舞台)などを普通に読んでいた頃なので、なんとなく日本よりヨーロッパの方が寛容なのかと思っていました。

ジャンニは、同性愛により友人を破滅(具体的には不明)させたということで、矯正施設に入っていました。

病気や精神疾患のように治療の対象となっていたことにショックを受けますが、少し調べると、現在でも主に宗教的理由での矯正プログラムが存在していることがわかります。

同性愛以上に、仕事もせず、昼間からカフェの前にたむろしているいい大人が10人以上いる方が、よほど異常な気がしますが、彼らのジャンニに対するからかい、イジメは度を越していました。

悔しいので最後に痛い目に合ってほしかったのですが、おとがめは何もなし。

勤め先の修理工場のパワハラ経営者は母親と関係があり、母親も息子に対して愛情はあるものの偏見はあり、理解できていない様子。

ジャンニはニーノの温かい家庭に触れて、心安らぐ時を過ごしたのもつかの間、恋愛関係だと分かるとその態度を急変させます。

理解してくれる大人が、ひとりもいないことが、大変せつなく感じ、これが2人を追い詰めたのだと感じました。

『君の名前で僕を呼んで』のような、さわやかな話かと思ったら全然違っており、2人が不憫でもう本当に悲しくなりました。

ラストは銃声で唐突に終わります。これは身内から殺害されたのか、2人が自殺したのか、どちらだろうと思い、元ネタにヒントがあるかも、と探してみました。

すると、ニーノの甥の少年が撃ったという話で、とても驚きました。2人から脅された、または頼まれた。あと、年少で罪に問われないという理由から、親族の代表として撃ったという説も。

2人が手をつないでいたということですから、頼まれたのかもしれません。なんて悲しい話なのでしょうか。

気になる方は「ジャッレ事件」で調べてみてください。

映画中には確かに甥の少年というのが存在して、祖父から狩猟の手ほどきを受けてウサギを撃ったりしていましたが、それが伏線だったようです。

花火の技術があるのなら、それを仕事として、故郷を離れて2人で暮せばいいのに…と思ってしまいましたが、実話が元なのでどうしようもなく、やりきれなさが残ります。

ちょうど私の子どもと同じくらいの2人なので、親目線になり、誰が誰を好きになってもいいじゃん! 命が一番大切だよ…と涙しました。

美しいビジュアルとは裏腹な、胸にずしっとくる映画でした。

本当に、観てみないと分からないものですね。