『VORTEX ヴォルテックス』映画感想文・妻が怪しい…

夫役のダリオ・アルジェント…幼い私を震え上がらせた最恐映画『サスペリアPART2』の監督です。

映画そのものより、ダリオ・アルジェントが80歳を超えて俳優デビュー、しかも主役とは一体どういうことだ!? という好奇心で鑑賞しました。

死に向かう老夫婦の話ということで、地味そうな印象でしたが、私も中高年の域であり、親も高齢に達しているため、興味深く拝見しました。

ダリオ・アルジェントは普通のおじいさんにしか見えませんでした。演技か素に近いのか…実は監督ギャスパー・ノエの当て書きのようです。

監督・キャスト

監督

ギャスパー・ノエ

キャスト

ダリオ・アルジェント(夫)

フランソワーズ・ルブラン(妻)

アレックス・ルッツ(息子)

2021年製作/148分/PG12/フランス
原題:Vortex
配給:シンカ
劇場公開日:2023年12月8日

あらすじ

映画評論家である夫と元精神科医で認知症を患う妻。離れて暮らす息子は2人を心配しながらも、家を訪れ金を無心する。心臓に持病を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて、日常生活に支障をきたすようになる。そして、ふたりに人生最期の時が近づいていた…。

『ヴォルテックス公式HPより』

感想(ネタバレ含む)

まず目を引いたのは、画面を二分割して一方で妻、もう一方で夫の動きをカメラで追っていくところです。

夫婦はそれぞれ別の行動を取り、動きはかなりスローペースですが、2画面を見るため割と忙しく、ドキュメンタリータッチで見せていきます。

妻は認知症、夫は心臓病を患い、今は何とか生活できていますが、状況は悪くなる一方。

長年連れ添った夫婦としての体裁は保っていますが、互いの心や身体の変化により関係が崩れ始め、不穏な雰囲気となっていきます。

万人に訪れる老いと死の、とある形という視点で見れば、身につまされ多少の苦さを感じる展開です。

しかし私は、どうもそれだけの話でもないように思えて、サスペンス的視点(妄想?)へと見方を変えました。

夫は妻に殺されたのではないでしょうか。

妻は夫に別の女性がいることを知っていたようです。

夫の執筆原稿を勝手に捨ててしまったのは、認知症のせいではなく、夫への腹いせだったのではないか…。

ガス栓を開いたままにして、夫が気づき、未遂に終わった件がありましたが、分かっていてやったのではないか…。

夫の病死後、大量のサプリを廃棄していましたが、証拠隠滅をはかっていた可能性もあります。

彼女は元々医師ですから、ボケたふりをして、または明晰になる瞬間があって、夫を弱らせる薬を盛ることができた…そんな見方もできます。

妻は夫が亡くなると、後を追うようにガス栓を開けて自殺してしまいます。不倫夫を残して自分が先に死ぬなんて悔しくて絶対に嫌でしょうが、夫が亡くなればもうこの世に未練はないという気持ちになるのも分かります。

冒頭から、夫婦愛の話に見せかけておいて、実は愛憎劇なのかもしれないと思うと、非常に怖いです。

人生の終盤で、こうした混乱が訪れますが、それもこの夫婦が亡くなってしまえば、何事もなかったかのように平穏が訪れます。真相は闇の中…というか、渦の中。

何があろうと、またはなかろうと、生きていた時に抱えていたものは、やがて消えてなくなっていくという無常観に、不思議と癒やされる気がしました。執着も何もかも手放せるということですから。

私がもう50代後半だからそう思えるのかもしれません。たまたま、ギャスパー・ノエと歳が近いせいもあるでしょう。若い方は、もしかすると見たくない世界かもしれませんね。

去年見ていれば、2023年のベストテンに入っていたかどうか…というくらい良かったです。公開が年末で惜しかった!

できればもう一度見たいけれど、それよりも新しい旅に出ようと思います(笑)