『瞳をとじて』映画感想文・人のせいにしたら駄目

何か月も前から楽しみにしていた今作でしたが、私には残念ながら合いませんでした。

老いや過去、記憶の喪失などに対する考え方に少し違和感がありました。

大変良かったとおっしゃる方が多く、うらやましいような、悲しいような…まぁ仕方ありません。

自分の意見はしっかりと持たなくては(涙)

あらすじ


映画監督ミゲル「別れのまなざし」の撮影中に、主演俳優フリオ・アレナスが突然の失踪をする。

それから22年が過ぎたある日、ミゲルのもとに、かつての人気俳優失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が来る。

取材への協力を決めたミゲルは、親友でもあったフリオと過ごした青春時代や自らの半生を追想していく。

番組終了後、フリオに似た男が海辺の施設にいるとの情報が寄せられ……。

2023年製作/169分/G/スペイン
原題:Cerrar los ojos
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年2月9日

感想(ネタバレ含む)

『ミツバチのささやき』が5点満点だとすると、『エル・スール』は4点、『瞳をとじて』は2.5点くらいでしょうか。

ビクトル・エリセ監督ということで、期待が高まりすぎたのかもしれません。

2時間49分という時間が本当に必要だったのか

後半、フリオが見つかるという動きがあってからは早く感じましたが、それまでがいささか冗長ではなかったでしょうか。

ミゲルの思い出めぐりが長く、これが本当に必要なのか、後半に効果をもたらすのか、疑問に感じながらの鑑賞でした。

彼はビクトル・エリセを投影した人物で、22年間映画を作れなかったことをしつこく考え、振り返って考えます。

それがとにかく長くて微妙でした。

ミゲルが過去に固執している印象

過去や失ったものを取り戻すという考え方が、そもそも私に合わないのです。

今を大切にしようと日々努力している者にとっては、ミゲルの行動がよくわからないのです。

ミゲルとフリオはどちらもビクトル・エリセであると考えられますが、映画内世界では他者であり、自分が失ったものを他者で埋め合わせる印象がありました。

そこが最も許容できないポイントかなと思いました。

セルフ・オマージュが寒い

アナ・トレントさんが出られるということで、少し嫌な予感もしていましたが、50年越しに「私は、アナよ」と言わせているのが、私には興ざめでした。

あの時の、あの子が言うから良かったのだと思うのです。

他にも随所に過去作の引用が見られ「何か関係があるのかな?」と気が散ってしまいました。

人気俳優の行方不明は騒がれます

まず、映画の主演俳優が撮影中に失踪し、行方不明になれば、国内でニュースとなり、かなりの話題となるでしょう。

本人が記憶喪失となっても、どこかで見つかったのなら「俳優のフリオ・アレナスでは!?」と誰かが気づくはずです。

(日本でも若人あきら→我修院達也さんの例があり、3日後に記憶喪失で発見されています。)

この辺りが理解できません。22年も素性が分からないとか…ありえないと思うのです。

あるはずだった人生とか考えるのはくだらない

マジで考えても決して幸せにはなれません。

過去を捨てたくても捨てられないミゲルよりも、フリオの方がよほど今を生きていて素敵に見えました。

貧しく、俳優の頃のような華やかさも何もない生活でしょうが、こつこつと真面目に働いて、何とか一人で生活できていることは、決して哀れではないと思うのです。

記憶を取り戻させようとするやり方が乱暴では?

記憶喪失から22年も経てば、新しい人生を生きているはず。

そしてフリオは、自ら撮影中の現場から姿を消しているため、当時は相当苦しい精神状態だったと思われます。

それを思い出せと言わんばかりの、ミゲルの行動が理解できません。

自分も苦しい過去があるのなら、人の記憶をむやみに掘り返したりできないはずです。

過去は捨てて、新しい友人関係を構築すればいいのでは、と思ってしまいます。

フリオのせいで中断した映画をわざわざ見せるなんて、乱暴ではないでしょうか。

そして瞳をとじる…

フリオは最後どのように思ったのでしょうか。

私なら、彼ら(ミゲル、娘のアナ、昔の恋人など)にまつわる全てから目を伏せたいと思うでしょう。

「余計なお世話…放っておいて…」と。

他者として描かれている以上、そのように見えても仕方ないということです。

やはり『ミツバチのささやき』は奇跡のような映画だったと、あらためて思いました。

ビクトル・エリセ監督には「こんな昔話をグチグチ言うよりも、84歳でもなんでも、これから毎年映画を作ればいいゃないか」と思うのです。

ただ、今までのことをひとまずこうしてまとめておきたかったという気持ちも分かります。

ですから、今後の作品に期待したいと思っています。