【U-NEXT】『ヘレディタリー 継承』(2018)感想文・これは必見ホラーでした

これが長編デビュー作とは…アリ・アスターってやはり凄いです。

ホラーとしての完成度が高い上に、家族・親子の関係について物語っているところがすばらしいです。

『エクソシスト』もそうでしたが、ただ恐ろしいだけではなく別のテーマも加わると、見終わった後の充足感が違いますね。

あらすじ

祖母エレンが亡くなったグラハム家。過去のある出来事により、母に対して愛憎交じりの感情を持ってた娘のアニーも、夫、2人の子どもたちとともに淡々と葬儀を執り行った。祖母が亡くなった喪失感を乗り越えようとするグラハム家に奇妙な出来事が頻発。最悪な事態に陥った一家は修復不能なまでに崩壊してしまうが、亡くなったエレンの遺品が収められた箱に「私を憎まないで」と書かれたメモが挟まれていた。

2018年製作/127分/PG12/アメリカ
原題:Hereditary
配給:ファントム・フィルム
劇場公開日:2018年11月30日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

先に観た『ミッド・サマー』のような宗教・カルト系の映画かと思っていたら完全なホラーの類でした。

配信ではなく劇場で見ると相当怖いでしょう。画面も暗く、どうしようもなく不穏で邪悪。

結末もピーターが悪魔崇拝側の王となり、他の家族は全滅したので、バッドエンドと言えます。

ただ、不思議と鑑賞後感が良く「いいもの観たな〜」という気持ちになります。

ひとつには、仕掛けが多いこと。伏線が張り巡らされていて、後になっていろいろなことに気がつく満足感があります。

そしてもうひとつ、悪魔崇拝の「遺伝的な悲劇」とは別に「家族愛」という、2つの継承を描いていて、結末は悲劇でしたが愛にあふれる作品だったということ。

怖さにフォーカスしていると気づかないかもしれませんが、実は真人間と悪魔の二つの間で、この一家(父親は血縁関係がないので別として)が非常に揺れ動き、葛藤しています。

アニー(母)もチャーリー(娘)もピーター(息子)も、人間の時には「愛する家族を悪魔の手から守りたい」と望み、悪魔の支配下になると思考が変わります。

諸悪の根源の亡き祖母さえも、娘アニーに対してすまないという気持ちを表していました。

揺れがあり一貫性のない人物に見えることから、主に女性たちは解離性同一性障害、夢遊病、チック…など精神的な疾患を抱えているとみなされました。

悪魔的行動から我に返った時の気持ちを考えると、彼女たちの葛藤はとても苦しいものだと想像でき、いっそ悪魔に完落ちした方が楽ではないかとさえ思います。

その点で、ラストのピーターは身も心も完全な悪魔崇拝の王となっていて、毒を食らわば皿まで、という感じ。見ていてすがすがしい気持ちさえしました。

母親アニー役のトニ・コレットが顔芸!?と言える表情で怪演されています。

この方『ドリーム・ホース』という超楽しい映画でも感情表現が豊かでしたが、振り幅がすごくて同じ人とは思えませんでした。

また、チャーリー役のミリー・シャピロさんの演技もとてもいいですね。現在はもう20代で、持病やレズビアンであることを公表して音楽活動をされているそうです。

この作品はアリ・アスター監督自身の体験(遺伝による家族への悲劇)が元のようで、それをこのように作品に昇華できるのがすばらしいです。

私自身は悪魔崇拝についてよく知らなかったので、少し調べたりなどして、勉強になりました。

映画を見ると理解のために地理や歴史を調べるので、知識が増えてうれしいですね。

そんなわけで、ホラー好きなら必見の映画を今頃見た、というお話でした。

それでは、また次の映画で!