「ニナ・メンケスの世界」三作品の最後に見たのがこの映画です。
75分というコンパクトな上映時間ながら、ヒリヒリと心に残る映画でした。
乾きと暴力性が根底にある気がします。

目次
きらびやかなカジノのネオンと荒涼とした砂漠の風景が並ぶラスベガスを舞台に、カジノのディーラーとして働く女性フィルダウスの倦怠感に満ちた日常を、大胆かつミニマムに描き出す。前作「マグダレーナ・ヴィラガ」に続いてメンケス監督の妹ティンカ・メンケスが主演を務めた。
1991年製作/75分/G/アメリカ
『映画.com』より引用
原題:Queen of Diamonds
配給:コピアポア・フィルム
劇場公開日:2024年5月10日
またもや感覚に訴えるアート映画、いろいろな感想が浮かんで面白いです。
ラスベガスと聞くと華やかなイメージがありますが、女性ディーラーのフィルダウスの日常は淡々と仕事をこなす地味な毎日の繰り返し。
驚いたのは、ディーラーとして働く彼女を延々と取り続ける場面。
何分くらいあったでしょう…10分か20分か、時間の感覚もなくなるほどの無機的な反復です。
いつまで続くのだろう? と誰もが思うシーンですが、そのままフィルダウスの気持ちでもあるのでしょう。
これは彼女の生活そのものを表していて、多少の波風、勝ち負けはあっても、基本的に何も変わらない毎日です。
また、キービジュアルにもあるような、木が燃えるのを眺めているシーン。
これもほぼ燃え落ちるまでを映し続けていて長いです。
木が燃え尽きるのを見て、彼女はなにか感覚的な気づきやきっかけを受け取ったことが想像できます。
日々のルーティンから抜け出せない自分との対比かなと感じました。
私が最も面白いと感じたのは、隣のカップルの結婚式です。
今まで、これほど面白くない結婚式は見たことがないというくらい、退屈な結婚式で、よくこんなに上手く描けるものだと感心しました。
隣家のカップルですが、普段はケンカが絶えない二人で、男が暴力を振るっている場面もありました。
今は幸せそうなこの二人が、またケンカの日常に戻るのは目に見えており、フィルダウスにとっては茶番劇のようなもの。
何かが吹っ切れたフィルダウスはくだらない結婚式を後にし、知らない男の車を捕まえて、去っていきます。
ここに不思議な爽快感がありました。
知らない男の車には当然危険があり、暴力の可能性もはらんでいます。
しかし、退屈極まりない日常よりははるかにマシなのです。
『マグダレーナ・ヴィラガ』同様、ティンカ・メンケスが、とにかく抜群に怠惰で退屈そうな演技。
くすぶり鬱積した主人公の心情がにじみ出ていました。
一方で、様々なショットが本当に美しく繊細であり、時に幻想的でもありました。
燃える木から啓示を受けた彼女の未来は、破滅に向かうのかもしれないな、と想像したりしました。
暴力の匂いはこの映画中、ずっとつきまとっているような気がするので。
いやはや、自由度の高すぎる映画で、感想はもちろん自由なのですが、難しかったですね。
言いたいことがなかなか表現しにくくて、アウトプット力の未熟さを感じましたが、勉強になりました。