『バティモン5 望まれざる者』映画感想文・共感できる人がいなかった

感想を書くにも、いまひとつ気が進まず、観てから半月も経ってしまいました。

記憶も薄れつつあるのですが、鑑賞直後も正直なところピンとこなかったです。

どこまで本当にありそうな話なのか、わからないからだと思います。

あらすじ


労働者階級の移民の人々が多く暮らすパリ郊外の一画・通称「バティモン5」では、再開発のため、老朽化が進んだ団地の取り壊し計画が進められていた。そんな中、前任者の急逝により臨時市長に就任したピエールは、自身の信念のもと、バティモン5の復興と治安を改善する政策を強行することに。住民たちはその横暴なやり方に猛反発し、ケアスタッフとして移民たちに寄り添ってきたアビーらを中心とする住民側と、市長を中心とする行政側が、ある事件をきっかけについに衝突。やがて激しい抗争へと発展していく。

2023年製作/105分/G/フランス・ベルギー合作
原題:Batiment 5
配給:STAR CHANNEL MOVIES
劇場公開日:2024年5月24日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

冒頭部分、団地の爆破で元・市長が心臓発作により死亡、団地からエレベーターのない階段から棺桶を下ろすといった表現は、心が掴まれました。

つかみはOKだったのですが…。

少し考えたら、棺桶を上げ下ろしするのは大変に決まっているのだから、ご遺体を下まで運んでから納棺すればいいじゃないかと思いました。

一事が万事と言いますが、全体的に考えが足りないというか、目先のことにとらわれ、衝動的に動く人たちのように見えました。

移民の方々にしても市長側にしても、もっとできることがあるように思えるのです。

さて、物語の理解はできるし、大変なこともわかるのですが、ひとりひとりを見ていて「どう考えてこういう行動を起こしているのか」がよく分かりませんでした。

元々は善良な小児科医に見えた市長代理のピエールが、どんどん移民排除の方向へ傾いていくのは、私怨からととらえていいのか、もう少し描いてほしかったです。

また、アビーは理性的な立場として存在しますが、立候補を決意してから、市長の部屋へ強引に押し入ったこと、その後姿を隠したことは、やはり賢くないと思わざるを得ません。

ブラズに至っては、市長の家に押し入って、火をつけようとするなど、完全に犯罪者です。

市長から何からすべてが暴力的で、共感のしどころが見当たりません。

実際の移民問題は、これほど対話も落とし所もない、滅茶苦茶な状態なのでしょうか。

演出とはいえ、クリスマスに来て5分で強制退去などという、人権を無視した命令ができるものなのかも疑問ですし、慌てて出ていく住民たちも素直過ぎるような気が。

色々なところが引っかかりました。

暴力対暴力で映画全体が野蛮すぎると感じたのですが、これがどこまで事実に近いのか、いまひとつ分かりません。

それにしても、ピエール市長代理に見られるような、権力を持つと人間が変わっていくというのは、どういう心理の変化なのでしょうか。

やはり、世のため人のためになるという根本的な柱がないと、おかしな方向へ進んでしまいますから、元々信念のなかった彼には難しかったのでしょう。

アビーが市長に立候補し、どのような結果になるかは描かれていません。

いざ市長になってみると、人間が変わっていくということも100パーセントなくはないという意味で、怖い映画だとは思いました。

彼女はラストでブラズに見切りをつけたので、そこは良かった(というか当然)かな、と思いました。

自分にはあまりしっくりとはきませんでしたが、フランスの移民問題というのを初めて知ったので、そこはいい学びになりました。