最後までとても苦しいお話です。しかし、ひとりの女性が一生懸命生き抜いた姿を描いていて、感動的でした。
杏役、河合優実さんの演技が素晴らしかったです。
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売春や麻薬の常習犯である21歳の香川杏は、ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らしている。子どもの頃から酔った母親に殴られて育った彼女は、小学4年生から不登校となり、12歳の時に母親の紹介で初めて体を売った。人情味あふれる刑事・多々羅との出会いをきっかけに更生の道を歩み出した杏は、多々羅や彼の友人であるジャーナリスト・桐野の助けを借りながら、新たな仕事や住まいを探し始める。しかし突然のコロナ禍によって3人はすれ違い、それぞれが孤独と不安に直面していく。2024年製作/113分/PG12/日本
『映画.com』より引用
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2024年6月7日
毒親育ち、不登校から覚醒剤依存、売春と、過酷な少女時代を過ごしてきた杏。
母親の暴言暴力が本当にひどく、半ば洗脳されているため、逃げることもできない様子が、本当に悲惨です。
母親から売春を強要されるという異常な生活の中、刑事との出会いをきっかけに、自分の人生を立て直そうとするのですが、それも簡単ではありません。
母親の元を離れ、仕事に就き、自助団体に入り、夜間学校で学び直し…。
自立への道を模索する杏は、とても幸せそうでしたが、居場所を調べてつきまとう母親や、コロナ禍に遮られて孤独を深めていくのが、本当にやりきれません。
杏の表情は淡々としていて、大きく嘆き悲しんだりはしないのですが、生きがいを見いだしてもことごとく打ち砕かれる絶望感やあきらめが、河合さんの演技からひしひしと伝わってきます。
中でも、信頼を寄せていた刑事・多々羅(佐藤二朗)が、実は自助団体の女性たちに手を出していたという事実は、見ているこちらも怒りが湧くほどでした。
人間の、欲望に勝てないどうしようもなさや弱さを、とてもうまく描いていると思いました。
ただ、杏だけはガッカリさせないでほしかったと多々羅に言いたかったです。本当に佐藤二朗が嫌いになりそう…元々、突然大きい声を出すから苦手なのですが。
押し付けられた赤ちゃんの世話を通して、生きがいをつかみたいともがいていた杏は一時的に救われたのかもしれません。
それも突然奪われて…もうどうしようもない状態になってしまい、再び親からの売春の強要、覚醒剤の使用を通して自死へと進んでいきます。
ここまでくると、もう仕方ないという思いと、それでも何とかなったのではないかという思いが半々です。
彼女の再び落ちていく行動も、半分は事故のように感じられました。
鑑賞後感が気分の悪いものではなかったのはなぜだろうと不思議で、見終わってからもずっと考えたのですが「杏はただの可哀想な子ではなかった」と思うことで、気持ちがすっと落ち着きました。
自立のために精一杯努力し、仕事や学びで幸福感を得て、短い間ではあっても輝いた時間があったということが、彼女の人生のおいて光を放っていると感じたのです。
ささいなことであっても、日々の喜びというものがいかに大切か、とても考えさせられました。
よりよく生きたいという願いがあったから、彼女の人生は辛いだけのものではなかったと言えるのではないでしょうか。
お腹にずしっとくる重い作品でしたが、本当にすばらしい映画でした。