意外とシリアスな話で驚きがありました。
とても心に残る台詞があったのでご紹介したいと思います。
目次
定年退職し妻モーリーンと平穏な日々を過ごしていたハロルド・フライのもとに、北の果てから思いがけない手紙が届く。差出人はかつてビール工場で一緒に働いていた同僚クイーニーで、ホスピスに入院中の彼女の命はもうすぐ尽きるという。近所のポストから返事を出そうと家を出るハロルドだったが、途中で考えを変え、800キロ離れた場所にいるクイーニーのもとを目指してそのまま手ぶらで歩き始める。ハロルドには、クイーニーにどうしても会って伝えたい、ある思いがあった。
ハロルドの思わぬ行動によって自身も変化していく妻モーリーンを、「ダウントン・アビー」シリーズのペネロープ・ウィルトンが演じた。原作者ジョイスが自ら脚本を担当。2022年製作/108分/G/イギリス
『映画.com』より引用
原題:The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry
配給:松竹
劇場公開日:2024年6月7日
あらすじの通り、着の身着のままで家を出たハロルド。
800キロというと、東京から札幌や広島くらいの距離で、おじいちゃんだから…ともっと近いイメージでいた私は後から調べてびっくりしました。
それは何週間もかかりますね。
最初はクイーニーに会いに行くことで彼女に希望を与えたいという動機があったものの、歩みを進めるうちにハロルドの心に変化が表れます。
ホスピスへの旅は、次第に息子が生まれてから亡くなるまでをたどる、彼の追想の旅に置き換わっていくのです。
ドラッグにより病んでいく息子を救うことができなかったという自責の念や、そこから25年にわたる妻との心の隔たりなど、これまで心の底に沈めていたさまざまな思いが浮かび上がってきます。
ナメていたわけではないのですが、この映画がおじいちゃんのホッコリ映画でないことが分かってくると、こちらも急に真剣味が増してきました。
ハロルドの妻、モーリーンの様子が多く出てくるのは、この映画に夫婦の絆の再構築という要素があるからです。
母親であれば、父親と同じかそれ以上に、息子のことで心を痛めていたはず。
「ハロルドばかり慰められ、注目され、褒められ…自分だって苦しんでいるのに!」という辛さは、ごく自然なものに感じました。
隣家の妻を亡くした黒人男性に心を開いて癒やされ、ハロルドの元へ足を運んでボロボロの姿に対峙し、彼女は彼女で夫への負の感情を乗り越えることが必要だったのですね。
ハロルドの亡くなった息子デイヴィッドを演じているのが、アール・ケイブという若い俳優さん。
もしや…と思ったら、ミュージシャンのニック・ケイブの息子さんでした。角度によってはお父さんにすごく似ています。
ドラッグに依存して病んでいる感じが妙に生々しく、真に迫っていて、上手いのか天然(!?)なのか分かりませんが、とても良かったです。
息子デイヴィッドの幻影を人混みの中に見て、それを妻に報告するシーンは、夫婦がこれまでの悲しみを共有する、切ないながらもあたたかい場面でした。
当初の目的クイーニーとの再会は、彼女がもうろうとしていたため、たいして感動もなく、道連れの青年も、犬も、応援の団体も、みんないなくなり、最後はハロルドひとりとなります。
そこへモーリーンが迎えに来るラスト、これはずるい…(涙)
息子へのつぐない、夫婦の絆の再構築には、ハロルドが長い道のりを歩く必要があったのです。
道中で出会った女性が印象的な話をしていました。
「基本的なことが意外と難しい、歩くことや寝ること、食べること、子育ても…」
確かにそうだわと、ハッとしました。
生きていれば、必要なことは何でもうまくできるかといえば、そうでもないのです。
ハロルドみたいに、近道をせず、不器用に愚直に、試行錯誤していくことが大切なのでしょうね。
ありふれた展開かと思いきや、厳しく深い話で、とても良かったです。