【U-NEXT】『太陽を盗んだ男』(1979)映画感想文・ラストにかけて本当に凄い、伝説の作品

とても評価の高い映画ですが、未見のため鑑賞しました。
1979年といえば、沢田研二さんが「カサブランカ・ダンディ」を出した年。「TOKIO」の前ぐらい。人気絶頂の頃です。

しかし! アイドル映画のようなものではなく、とんでもない衝撃作でした。

あらすじ

中学校の冴えない理科教師・城戸は、原子力発電所に侵入してプルトニウムを盗み出し、自宅アパートで苦労の末に原子爆弾の製造に成功。警察に脅迫電話を掛けると、以前バスジャック事件に遭遇した際に知り合った山下警部を交渉相手に指名する。明確な目的も思想も持たない城戸は、テレビの野球中継を試合終了まで放送させるよう要求したり、ラジオ番組を通して次の要求を募集したりと、行き当たりばったりの犯行を続けるが……。沢田研二が主演を務め、菅原文太が山下警部を圧倒的存在感で熱演。

1979年製作/147分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1979年10月6日

『映画.com』より引用

感想(ネタバレ含む)

ニャロメの落書き、煙草はハイライト、現役の王貞治、電電公社、聖徳太子の一万円札…今見ると、懐かしい光景が広がっています。

その中で武道館の入口だけは今とあまり雰囲気が変わらず、安定感になんだかホッとしました。

撮影の数年前にタイガースの解散コンサートがあった場所です。

しらけ世代の代表のような人物だった城戸が、思想も目的もないまま狂気の原爆製造にのめり込んでいくきっかけは、皮肉にも熱血刑事山下でした。

城戸の一方的で身勝手なシンパシーであり、何者でもない城戸が何者かになりたいという、心の奥底にあった欲求に山下が火をつけてしまったという、不運な出会いです。

山下警部もDJゼロも、さらには東京都民も…巻き込まれて災難でしかありませんが、多くの犠牲者を出す犯罪とは、往々にしてそういうものだという不条理性を感じて、やるせないです。

人はこの作品の誰に自己投影し、共感するのか、興味深いところです。

ある解説を読んでいたら、城戸の行動にシンパシーを感じると書いている方がいらして「へぇ…そうなんだ、いろんな考え方があるものだな」と思いました。

城戸は原爆を作ったからといって思想や理念もなく、道徳心ももちろんないわけで、野球とローリングストーンズで国家を振り回すのが痛快で面白い!? くだらなくない!?という感じです。

ダークヒーローにしては中身がない人物造形なので、私は城戸がとことん愚かで不愉快に思えたのですが。

サビ猫を実験台にするのも許せないですね。

マタタビを使って撮影したとどこかで見ましたが、舌を出してぐったりしている場面が2回ほどありました。

寝ているのとも違うし、本当に殺すか麻酔でも使わないとあのようにはならないと思うので、嫌悪感も倍増です。

歌手としての沢田研二はあんなに輝いていたのに、城戸みたいなクズ野郎を演じさせて良かったのでしょうか。

そのため、ラスト近くの山下警部の台詞にはしびれました。

「お前が殺したがっているのはお前自身だ! 死ねーっ! 地獄に堕ちろーっ!」

文太すばらしい…拍手。

惰性で生きているのは自分の責任であり、うまくいかないのを他者のせいにするのが本当に見苦しい城戸。

菅原文太によってカタルシスが得られました。

彼もいざとなると狂気の部分が出てきて、アドレナリンが出ているせいか、ヘリから落ちても、銃で撃たれても、しぶとくて全然死にません。

城戸にイライラ、DJ(池上季実子)のキャラと下手な演技にイライラしながら大半を過ごしましたが、終盤すごいカーアクションと文太の血みどろ鬼気迫る演技で、全部帳消しになってお釣りもいただいた感がありました。

結局城戸は、冒頭のバスジャックの直後から、破滅に向かって突き進んできた男だったのでしょうね。

孤独の中でようやく心が通い合った女性は(自分のせいで)死に、一緒に戦いたかった山下警部からは全否定され、東京都民を巻き添えに自爆していく、最悪の結末。

それでも彼は、何もないままただ生きていくよりも、破滅の道を選んだ方が幸せだったのかもしれません。

そこが哀れなんだなぁ…沢田研二のアンニュイで退廃的なな雰囲気があってこその作品でした。

見ておいて良かったです。

でも本心を言うと、俳優としてのジュリーより、歌っている時の方が私は好きかな。