『Cloud クラウド』映画感想文・集団心理vs.依存?

黒沢清監督の映画は面白いです。思わぬ方向、思わぬ世界へ連れて行かれる心地よさを感じますね。

そこここにあふれる違和感や狂気を楽しみました!

菅田くん良かった…

あらすじ


町工場で働きながら転売屋として日銭を稼ぐ吉井良介は、転売について教わった高専の先輩・村岡からの儲け話には乗らず、コツコツと転売を続けていた。ある日、吉井は勤務先の工場の社長・滝本から管理職への昇進を打診されるが、断って辞職を決意。郊外の湖畔に事務所兼自宅を借りて、恋人・秋子との新生活をスタートさせる。地元の若者・佐野を雇って転売業は軌道に乗り始めるが、そんな矢先、吉井の周囲で不審な出来事が相次ぐように。吉井が自覚のないままばらまいた憎悪の種はネット社会の闇を吸って急成長を遂げ、どす黒い集団狂気へとエスカレート。得体の知れない集団による“狩りゲーム”の標的となった吉井の日常は急激に破壊されていく。

2024年製作/123分/G/日本
配給:東京テアトル、日活
劇場公開日:2024年9月27日

(『映画.com』より引用)

感想(ネタバレ含む)

吉井(菅田将暉)は、真面目に働くことに嫌気がさし、副業だった転売にのめり込んでいきます。

転売そのものが悪か、というとそうでもありません。しかし、彼はいつの間にか一線を越えて、偽ブランド販売などに手を染めていってしまいます。

売れていく商品を無表情で眺める吉井に、少なからず異常性を感じました。そこに依存に近いものを感じたからです。

パソコンに向かっている吉井に秋子が声をかける場面が何度かありました。初めは手を止めて彼女に向き合っていましたが、後半は「後にしてくれ!」と怒鳴っていることから、のめり込んでいることが分かりました。

終盤、襲われて殺されそうになっているのに、まだ普通に転売のことを考えているのも異常でしたね。

元の人間、元の日常から少しずつ足を踏み外し、やがて原形を留めない狂気の存在へと変化していく怖さ、またそこに面白さも感じました。

各々の恨みがネット上で集団心理となって急加速、暴走し、いつの間にか吉井を殺害するところまで突き進んでしまったのですが、距離があるように見えて、実はネット上でふくらんだ話。日常と地続きであるという怖さがありました。

吉井に味方する佐野(奥平大兼)の、吉井に執着する異常性や、秋子(古川琴音)の付かず離れず一貫しない不安定なところも不気味です。

元々は善悪の判断がそこそこできたであろう人々が、狂気に駆られていく姿は本当に気味悪く恐ろしいですね。

職場の滝本(荒川良々)がアパートの前に現れた時は、特にぞっとしました。

そして、毎回思うのですが、今作もやはり菅田将暉さんは天才でした。

表情や表現が吉井という人物にしか見えないのは、演じる役のつかみ方、解釈に天性の勘がはたらくからなのでしょうね。

本当に素晴らしい才能です。

また、奥平大兼くんもすごく良かった。途中から吉井と形勢逆転し、殺しの指南をするほどの力を発揮していくところや、初めの「ちょっと変な子」から「謎の組織のスナイパー」までの振り切り方が素晴らしかったです。

『Chime』でも完全に踏み外した狂気の人物を演じていた吉岡睦雄さん。「せいぜい楽しみましょ〜!!」は異常さ満載でとても楽しかったです。

「あーもう絶対変な人だ!」という逆の安心感(笑)

キャストの皆さん、どの方も不気味で本当に良かったです。何よりも楽しそうに演じておられるようにお見受けしました。

私も俳優だったらこんなおかしくなる役やってみたいですもんね。楽しいでしょうね!

最後に「ここは地獄の入口か?」というセリフがありましたが、「とっくに地獄やぞ…」とお答えしたくなりました。

いや〜面白かったです。