【U-NEXT】『マルホランド・ドライブ』(2002)映画感想文・奇跡のような悲劇

9月に見て「これは難しい!」と感想がすぐに書けず、放置していた映画。

年末年始に見返してどうにか自分なりに理解しました。

同じ人物の立場や名前が変わるので混乱しますね。

小物使いが上手でした

あらすじ

ロサンゼルス北部の山を横断する曲がりくねった道路“マルホランド・ドライブ”。ある夜、車の衝突事故が起こり、唯一の生存者である女は傷を負ったままハリウッドの街にたどり着く。高級アパートの一室に身を隠した彼女は、そこで女優志望のベティと遭遇。女はとっさに“リタ”と名乗り、事故に遭って記憶を失っていることをベティに打ち明ける。リタのバッグには大金と青い鍵が入っており、思い出せるのは“マルホランド・ドライブ”という言葉だけ。ベティはリタの記憶を取り戻す手伝いをしようと決意するが……。

2001年製作/146分/PG12/アメリカ
原題または英題:Mulholland Drive
配給:コムストック
劇場公開日:2002年2月16日

(『映画.com』より引用)

感想(ネタバレ含む)

ブルーボックスを開ける前

冒頭から1時間55分、ここまでがダイアン(ベティ)の夢と一般的には解釈されます。拳銃自殺での死に際に見た、一瞬の走馬灯のような夢です。

ここから先の暗転が凄まじく、ダイアンは夢で自らの人生を肯定しようと一生懸命であったことがわかります。

売れない女優の自分に、夢では白羽の矢が立ち、

振られたカミーラからは夢で愛され、

カミーラを奪った監督アダムは夢でひどい目にあい…

夢の中のベティ(ダイアン)は女優の夢を着々と叶えて、カミーラとの関係も主導権を握ります。

これらが全て願望であり、自分に都合のいい作り話であったことが痛々しく、哀れです。

夢は辻褄が合わないことが多いので、彼女の脳内での再構築なのだと理解しました。

ブルーボックスを開ける直前「クラブ・シレンシオ」での歌手レベッカの『ジョーランドー』。二人が涙を流しています。

この歌が気になり調べてみましたら、好きな人から別れを告げらけて泣き続けるという歌詞でした。

まるで現実のダイアンの心情を歌っているようで、涙の理由がわかりました。

ただ、ここでは隣にカミーラ(リタ)がいて一緒に泣いてくれています。これもまた理想の姿なのが悲しいです。また、夢が終わりに近づいていることもなんとなく感じられます。

「全ては録音です」とMCが言います。ダイアンの記憶から作られていると示唆しているのかもしれません。

ブルーボックスを開けた時、封じ込めていた罪が明らかになり、夢が消えていく(現実世界での死)のですが、その鍵を持っていたのがカミーラであり、箱が開いたことで完全消滅してしまったと私は考えました。

カミーラよりもダイアンが先にいなくなったのは少し不思議でしたが、少しずつ夢世界が崩壊していったということかな?と思いました。

ブルーボックスを開けた後

ここからが現実の話となります。前半でダイアンが見た夢がどんな人や物から構築されたのかが種明かしされる30分です。

前半のダイアンとは全く別人のような姿に愕然としました。

愛するカミーラは実は大女優であり、監督アダムと婚約、愛人も自分ではない別の女性に乗り換えています。

それをこれみよがしに見せつけられることで、ダイアンは大きなダメージを受けます。

可愛さ余って憎さ百倍。嫉妬に狂って闇落ちし、カミーラの殺害依頼をしてしまうダイアン。

髪の毛もボサボサ、化粧っ気もなく、陰気な借家に住んで、何もかもがうまくいかずに、やさぐれてしまっています。

彼女がいかに自分に都合のいい夢を見ていたかが分かり、何も知らずに見ていた前半の自分が裏切られたような気持ちになりました。

たびたび登場する不気味に笑う老夫婦は、ダイアンの両親と考えるのが自然です。

悪いことをすると親の顔が目に浮かぶことがありますね。両親に迫られるということは、良心の呵責を意味しているのだと思いました。

ホームレスのブルーボックスから老夫婦が出てきたのは、中に入っていた「罪の意識」から両親が逃げ出したということかもしれません。

まとめ

テレビドラマのパイロット版として作られた本作は、展開や結末を決めずに今後の登場人物を散りばめて作った約90分の後で、映画用に残りを付け加えたものです。

前半を夢にしたことで、辻褄の合わないところや、回収できていないところも納得ができ、実はレズビアンだったという後付け設定が生きて、奇跡的な作品になったのかなと思いました。

後になってふと思ったのですが、これらは全てひとりの人間の妄想であった、という考え方もできそうですし、考察しがいがあってとても面白かったです。

ハリウッドの闇の部分として、あまりにも悲劇が過ぎるという印象で、やりきれないお話でしたが、デビッド・リンチの世界観が堪能できました。

ナオミ・ワッツの演技の振り幅にも驚いた、凄まじい作品でした。