個人的には猿系にはなりたくないな…なんだか生々しくて。
これは主人公エミールじゃないね
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近未来。原因不明の突然変異により、人間の身体が徐々に動物と化していく奇病が蔓延していた。さまざまな種類の“新生物”は凶暴性を持つため施設で隔離されており、フランソワの妻ラナもそのひとりだった。ある日、新生物たちの移送中に事故が起こり、彼らが野に放たれてしまう。フランソワと16歳の息子エミールは行方不明となったラナを捜すが、次第にエミールの身体に変化が起こり始める。2023年製作/128分/PG12/フランス・ベルギー合作
原題または英題:Le regne animal
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2024年11月8日
冒頭から「どういうこと?」「ああ、そういうこと!」の繰り返しで、ぐっと心がつかまれました。
もっとSF的な物語で推していくのかと思ったら意外にもヒューマンドラマ。シリアス一辺倒でもなく、少しコミカルなシーンもあり、なかなか不思議な作品でした。
「人が獣に変化する奇病」ありきで、これについての質問・疑問には答えませんといったスタンス。それも潔くていいですね。
前半は「獣化」した母親が事故を機に脱走し、それを父親と息子が探そうとする、という設定がありましたが、後半は息子エミールが獣化していく苦悩や父と子の愛情を描いています。
思い出したのは『おおかみこどもの雨と雪』で、性別などを少し変えて、実写にしたような作品なのかなと思いました。エミールが同級生の女の子に打ち明けた時「知っていた」と言われるシーンなど、似ていたような気がします。
私が良いと思ったのは、ワシ(タカ?)に変化していくフィクスと交流が生まれ、やがて別れへとつながっていく部分。そして父親との心のすれ違いから信頼関係が生まれるまでの流れです。
フィクスのちょっと間の抜けた感じが『未来世紀ブラジル』を思い起こさせました。
(人間って重いからあれくらいの羽で飛ぶのは難しいんですよね。鳥は体を軽くするために骨の中が空洞になっているくらいですから。)
また、父親フランソワの、息子を守ろうとする本気度から、森へと送り出す決断に至るまでは感動的でした。普遍的な親子関係にもつながっていて、私には理想の父親像です。
素朴な疑問としては、このような奇病があったとして、施設に入れなくても、動物によっては一緒に暮らせるのではないか? 森に逃げたからと言って、元は人間なのに銃で撃っていいものなのか?
そんなことも感じました。たとえば施設に入れられたらやがて殺される運命だとか、獣化がどれくらいネガティブな事象なのか、もう少し深く知りたかったです。
現代では獣人がキャラクターとして数多くあるため、私に抵抗感が薄いのかもしれません。
主人公エミールを演じたのは2023年に『Winter Boy』で肉親の喪失と男性への愛で揺れ動く少年を繊細に演じたポール・キルシェ。1年の間に少し大人っぽく成長していました。
自分が動物(オオカミ)になっていくという苦しみをひとりで抱え、苦悩する演技が良かったですね。
ちょっと浮遊感のある、影のある役が似合います。背も高いし可愛らしくて、ファンもますます増えそうです。
「お母さん似ね」と言われるシーンがあり、母親で女優のイレーヌ・ジャコブを想起させるセリフのようにも思えました。
少年のパーソナルな苦悩と親子愛を主軸として、病への差別意識や自然破壊への問題意識も織り交ぜた良作でした。